長期脱炭素電源オークションとは?わかりやすく解説
脱炭素 更新日: 2024.06.26
長期脱炭素電源オークションは、2050年カーボンニュートラルを目指し、非化石燃料電源への移行を促進する制度です。この制度は、発電事業者における新規電源開発の投資予見性を確保しつつ、価格高騰リスクを抑え、脱炭素の実現と電力の安定供給の両立を実現します。では、長期脱炭素電源オークションが具体的にどのような仕組みで、今後どのような影響を与えるのか、詳しく見ていきましょう。
長期脱炭素電源オークションとは
長期脱炭素電源オークションとは、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、化石燃料を用いた電源から非化石燃料由来の電源への移行の促進と、価格高騰リスクを抑制を行いながら、脱炭素の実現と電力の安定供給を目指す制度です。
長期脱炭素電源オークションは容量市場のうちの1つで、脱炭素電源に新規投資を行う発電事業者がオークションへ参加します。オークションによって約定された発電設備は、原則20年間の供給力を確保します。
これは2023年度から制度が開始され、初回の応札は2024年1月に実施されました。
容量市場とは
容量市場では、国全体で必要となる供給力(kW)の取引を行います。供給力は「発電することができる能力」と言い換えることができ、将来必要な供給力をあらかじめ確保する仕組みにより、電力の取引価格の安定化を実現します。
容量市場は、「メインオークション」「追加オークション」「長期脱炭素電源オークション」の3つのオークションから構成されています。各オークションでは、4年後、1年後、20年後という未来の供給力の取引が行われます。この供給力の募集については、市場管理者である電力広域的推進機関であるOCCTOが、数年後に使用される電力量を試算し、発電事業者に募集をかけます。発電事業者やアグリゲーターがオークションに応札し、安い順に落札されます。
卸電力市場とは
卸電力市場では、需要家に供給するための電力量(kWh)の取引を行います。発電事業者は売りたい量と価格を、小売電気事業者は買いたい量と価格を入札します。
卸電力市場はJEPXにより運営され、「スポット市場」「当日市場」「先渡市場」の3つから構成されます。スポット市場は卸電力市場のうちの代表的な1つで、翌日に発電または販売する電力を前日までに入札し売買を成立させるものです。
需給調整市場とは
需給調整市場では、ゲートクローズ後の需給ギャップ補填、30分未満の需給変動への対応、周波数維持のための調整力(ΔkW価値+kWh価値)の取引を行います。需給調整市場は、太陽光発電や風力発電などの変動電源の普及により調整力の重要性が高まり、安定供給を実現する上で欠かせない調整力の調達・運用を目的として開設されました。売り手となる発電事業者及びアグリゲータは、時間帯ごとに必要な供給力をもった発電所を提供し、買い手となる一般送配電事業者は調整力が必要な時に電源に指示をする権利を発電事業者から購入しています。
長期脱炭素電源オークションの背景
長期脱炭素電源オークション設立の背景には、卸電力市場での取引の拡大と長期的な見通しのつきづらさにあります。
卸電力市場は2016年度の電力小売完全自由化によって取引が拡大しました。脱炭素電源によって発電された電気は、PPAや売電などを除き、卸電力市場で売買されます。卸電力市場では、売る量と価格が約定されなければ利益が出ないことや、市場価格の低下などによって投資の予見性が立てづらくなっています。
そうしたことから、脱炭素電源を新規投資する発電事業者にとって、発電所を新規開設するタイミングは非常に重要となります。カーボンニュートラルの実現には、脱炭素電源の確保と新規投資を促す必要がある中で、投資タイミングの見極めによる開発の鈍化が懸念されます。
電源への投資が最適なタイミングで行われないと、電源の新設・リプレースが行われないまま既存発電設備の閉鎖が起こります。既存設備の閉鎖によって、供給力不足が顕在化してからでは、電源開発に一定の時間を要するため、需給が逼迫し電気料金が高止まりすることが予想されます。
こうした背景から、投資タイミングに関わらず回収の予見可能性を確保するために長期脱炭素電源オークションは導入され、中長期的な観点で安定供給上のリスクや価格高騰リスクを抑制しながら、2050年カーボンニュートラル実現に向けて需要家に対して、脱炭素電源の供給力の価値を提供します。
長期脱炭素電源オークションの仕組み
長期脱炭素電源オークションは、新設またはリプレース等の脱炭素電源への新規投資を対象とし、原則20年にわたる期間の供給力を確保する仕組みとなります。
発電事業者は、脱炭素電源を導入するための投資や、供給力低下に対応して容量確保するため、新設やリプレース等を行い、供給力を提供します。
それに対して小売電気事業者が容量拠出金を支払い、発電事業者はこれを容量確保契約金額として広域機関を通じて受け取ることができます。
発電事業者は、発電所の固定費水準を満たす容量確保契約金額を得ることができます。しかし、脱炭素オークションを利用して設置した発電所は、卸市場・非化石市場などのその他市場で得た収益は可変費に当てられ、可変費を超過した分の9割は還付する必要があります。
長期脱炭素電源オークションの方式
長期脱炭素電源オークションでは、発電事業者等が応札単位で、応札容量と応札価格(円/kW/年)を決めて電源の応札を行います。応札に対し、マルチプライス方式で落札されます。
応札後、原則、電源種混合で応札価格の低い順に電源が落札され、募集量を満たす電源までが落札電源となります。マルチプライス方式では、落札電源の応札価格が約定価格となります。
長期脱炭素電源オークションの対象電源
オークションの対象とする電源は、脱炭素電源の新設・リプレースおよび既設火力の脱炭素化への改修における新規投資とし、電源区分は安定電源と変動電源としています。
ただし、2023〜2025年度の3年間はLNG専焼火力も対象とします。
区分 | 対象電源 |
---|---|
新設・リプレース | 太陽光 |
陸上風力・洋上風力 | |
一般水力・揚水 | |
蓄電池 | |
地熱 | |
バイオマス | |
原子力 | |
水素(10%以上) | |
LNG | |
既設火力の改修 | 水素10%以上の混焼にするための改修 |
アンモニア20%以上の混焼にするための改修 | |
既設火力の化石kW部分の全てをバイオマス化するための改修 |
制度適用期間は、2027年度以降となり、応札時に運転開始前の電源が対象(既設火力の改修の場合は、改修工事後の運転再開前)となります。
また、電源ごとに供給力提供開始期限、最低応札容量を設けています。
電源種別 | 燃料または発電方式 | 最低応札容量(万kW) | 供給力提供開始期限(年数) |
---|---|---|---|
火力 | 水素またはアンモニア | 10(新設) 5(改修) |
11 |
バイオマス | 10 | ||
蓄電池 | 1 | 4 | |
水力 | 揚水発電 | 1 | 12 |
一般 | 10 | ||
地熱 | 10 | 8 | |
原子力 | 10 | 17 | |
太陽光 | 10 | 5 | |
風力 | 10 | 8 |
初回オークションの結果
長期脱炭素電源オークションは2023年度に1回目の募集があり、2024年4月に約定結果が公表されました。脱炭素電源は募集量400万kWに対して、約定容量は401.0万kWでそのうち166.9万kWが蓄電池・揚水で82.6万円が既設火力の改修になります。
応札容量(落札率)は、揚水が83.8万kW(69%)、蓄電池が455.9万kW(24%)、水素混焼への改修が5.5万kW(100%)、アンモニア混焼への改修が 77.0万kW(100%)、水素混焼(リプレース)が6.8万kW(0%)、バイオマス専焼(新設)が 19.9万kW(100%)、原子力(新設)が131.6万kW(100%)、LNG専焼火力が 575.6万kW(100%)となります。
また、落札容量のうち新設・リプレースが91%を占める結果となりました。
第一回目の募集容量は400万kWでしたが、この容量は今後も拡大することが予測されます。
こちらは、2023年度に実施された容量市場のメインオークションの約定結果です。
約定総容量は1億6,745万kWに対して、応札容量比率は以下になります。この図を見ると、
LNGを含む67.5%が火力発電であることがわかります。これは約1億1,000万kWが火力発電に由来していることがわかります。
2050年カーボンニュートラルに向けて非化石燃料に切り替えていくことを考えると、今後も募集容量は今後も増加していくことが予想されます。
まとめ
2023年度から新たに始まった長期脱炭素電源オークションは、2050年カーボンニュートラル達成に向けて脱炭素電源の新設やリプレイスを促進するとともに、中長期的な電力の安定供給を目的に設立されました。
長期脱炭素電源オークションによって、新設を行う発電事業者には、卸電力市場の不安定さに左右されない投資予見性の確保がされます。電気を使用する消費者にとっても、変動費以上の収益は還付されることから負担をかけずに非化石燃料への転換を進めることが可能となります。
このように、日本においても長期脱炭素電源オークションが実施され、今後20年間の脱炭素電源の供給力が確保されています。日本もカーボンニュートラルの実現に向けて着々と環境が整備されています。脱炭素は地球規模で取り組むべき課題であり、これ以上の気候変動を止めるためにも世界全体で取り組みが加速しています。
いま脱炭素を経営課題として、取り組む企業が増加しています。企業における社会的責任として、Co2排出量の削減を進めることや、削減量やカーボンニュートラルへの達成目標を掲げグループ全体へ働きかけが起き始めています。カーボンニュートラル実現のためには、企業それぞれで脱炭素化に取り組むことが重要です。
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