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いまさら聞けない脱炭素と企業の関係|脱炭素で企業はどう変わる?

脱炭素 更新日: 2022.06.13

2020年10月に当時の菅首相が表明した「2050年カーボンニュートラル宣言」により、諸外国に遅れながらも日本も「脱炭素化」に大きく舵を切りました。脱炭素社会の実現のためには、温室効果ガス排出量の8割以上を占める産業部門の削減が不可欠で、企業の取り組みが重要視されています。

本記事では、脱炭素とは何か、そして企業における脱炭素化についてご紹介します。

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そもそも脱炭素とは何か

脱炭素とは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスを排出する現在の炭素社会から脱却することを指します。脱炭素の実現の方法は大きく2つあり、温室効果ガスの排出抑制と排出された温室効果ガスの吸収です。必ずしも温室効果ガスの排出ゼロを目指すのではなく、森林や海洋、土壌、またテクノロジーによって吸収することで、温室効果ガスの排出と吸収の量がトータルでイコールになること(ゼロ)を目指します。2050年カーボンニュートラル宣言を行った菅元首相は、その所信表明演説において「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という表現を用いています。

脱炭素の派生語には、脱炭素が実現した社会を指す「脱炭素社会」や脱炭素の実現を目指す取り組みの総称として「脱炭素化」、企業における脱炭素「脱炭素経営」、脱炭素が経済・社会活動に大きく影響する時代「脱炭素時代」などがあり、「カーボンニュートラル」は脱炭素の同義語として扱われています。

脱炭素推進の潮流【パリ協定】

脱炭素に限らず温室効果ガスの排出削減や環境破壊の抑制などを念頭に置いた地球温暖化対策に関するあらゆる取り組みは、数十年前から世界的な枠組みの中で推進されてきました。近年の脱炭素を推進する潮流は、2015年のCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)で合意に至ったパリ協定から始まっていると言えます。パリ協定は日本人にも馴染み深い京都議定書(1997年)の後継で、気候変動に関する国際的な枠組みを定めています。

具体的には

  • 世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2℃より低く保ち、1.5℃に抑える努力をすること
  • そのために、できる限り早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と吸収量のバランスをとること

という2つの長期目標を掲げています。「温室効果ガス排出量と吸収量のバランスをとること」がまさしく脱炭素・カーボンニュートラルの実現を指しています。

パリ協定の批准する国と地域は187(2019年12月時点)で、世界の温室効果ガス排出量の約90%をカバーしており、これまでのどの気候変動に関する枠組みよりも影響力があります。各国はパリ協定が定める目標に基づいて、自国の温室効果ガス排出削減目標を定めたり、環境破壊を規制するような法律を制定したりしており、また、パリ協定を起点として様々な国際的なイニシアチブや団体が組成されています。

脱炭素推進の潮流【RE100】

RE100は「Renewable Energy 100」の略称で、企業が事業活動で最終消費するエネルギーをすべてCO₂を排出しない再生可能エネルギーで賄うとする国際イニシアチブです。AppleやGoogle、NIKEなどの超大企業が世界全体で369社加盟しており、日本からはリコー、ソニー、パナソニックなど70社が加盟しています(2022年5月16日時点)。

脱炭素が推進される社会において、RE100に加盟していることは、対外的に気候変動への取り組みを推進していることを強くアピールでき、加盟企業は地球規模での問題に取り組みながら企業活動にも恩恵を得られます。

RE100に参加している国別企業数グラフ|日本は86社で世界2位(2022年3月31日時点)(出所)RE100ウェブサイトより作成

脱炭素推進の潮流【SBT】

SBTは「Science Based Targets」の略称で、パリ協定が定める「2℃目標」を達成するために、企業が科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標を設定し、その達成を目指す国際イニシアチブです。世界で1,267の企業が加盟し、日本からは173社が加盟しています(2022年3月31日時点)。

SBTにはGHG Scopeという3段階のターゲットが設定されており、自社のCO₂排出削減だけでなく、自社で使用する電気のカーボンフリー化、製品の製造過程や製品使用時のカーボンフリー化といったように、企業活動の上流から下流に至るすべての過程におけるCO2の排出削減を目標とします。

  • Scope 1:直接排出:自社の燃料使用に伴うCO2排出
  • Scope 2:間接排出:他社で生産されたエネルギー使用に伴うC02排出
  • Scope 3:他間接排出:組織のサプライチェーン全体で生じるCO2排出

※GHG:Greenhouse Gasの略称。温室効果ガス。

SBT国別認定企業数|日本は173社で世界3位(2022年3月31日時点)(出所)SBTウェブサイトより作成

脱炭素推進の潮流【TCFD】

TCFDは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略称で、日本語では「気候関連財務情報開示タスクフォース」と訳されます。環境の変化や気候変動が企業におけるリスクであるとの認識が一般化する中、投資家や金融機関が気候変動リスクへの企業の取り組みを踏まえた投資判断が円滑に行えるよう、気候変動に関する財務情報の開示を企業に促すことを目的としています。ブルームバーグの創業者であるマイケル・ブルームバーグ氏が委員長を務めています。

世界で3,150の金融機関・企業・政府等が賛同を表明しており、日本からの賛同数は757で、最も多くの団体が賛同している国となっています。(2022年3月31日時点)

TCFD賛同企業数グラフ|日本は757社で世界1位(2022年3月31日時点)(出所)TCFDウェブサイトより作成

脱炭素推進の潮流【ESG投資】

ESG投資は企業における「Environment:環境」「Social:社会」「Governance:ガバナンス」の3つの要素を重視した投資活動を指します。昨今の気候変動では経済、社会が大きな影響を被っており、投資活動においても気候変動リスクは無視できない要素です。加えて、人権やジェンダー平等、働き方の変化に対応できているか、企業経営が適切に統制されているかといった観点も重要視されており、これらを考慮した経営を実践している企業を高く評価し投資対象とする投資活動がESG投資です。

ESG投資の普及を目的とするGSIA(世界持続可能投資連合)の調査によると、2016年に22兆8,390億ドルだったESG投資残高は、2020年には35兆3,010億ドルに増加しており、アメリカでは2016年比で10兆ドル、日本でも2兆ドル以上増加するなど、ESG投資の規模は年々大きくなっています。

 

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脱炭素時代に企業が注視すべき3つの関連法

2020年10月の「2050年カーボンニュートラル宣言」以降、日本でもいくつかの法律が改正され、脱炭素社会の実現に向けて道筋の整備が進められています。ここでは、脱炭素に取り組む企業が見過ごせない関連法を3つご紹介します。

地球温暖化対策推進法(2021年改正)

地球温暖化対策推進法(通称温対法)は、2021年の5月に改正案が国会で可決され改正温対法が成立しました。改正温対法では、パリ協定の目標と菅元首相による「2050年カーボンニュートラル宣言」が初めて法律に盛り込まれ、政府目標の裏付けが為されました

仮に政局が変化したとしても、脱炭素の推進を謳った法律があるため、脱炭素関連の政策が継続していく確実性が高まったという点で意義が大きいです。

脱炭素を反映した基本理念の新設

前回の2016年の法改正以降、パリ協定の締結や2050年カーボンニュートラル宣言など、気候変動や脱炭素をめぐる状況は大きく変化しています。変化し続ける気候変動問題に対応しつつ、国内の脱炭素化を促進させるために、今回の改正では新たな条文が追加されました。追加された条文のポイントです。

  • パリ協定の2℃および1.5℃目標を踏まえた、環境の保全と経済および社会の発展の統合的推進
  • 2050年までの脱炭素社会の実現
  • 国民、国、地方公共団体、事業者、民間団体等の密接な連携

地域の脱炭素化を推進

地方公共団体は温対法に基づいて、地域の地球温暖化を推進するために「地方公共団体実行計画」を策定する必要があります。ただ、具体的な施策についての実施目標の設定までは言及されておらず、実効力が課題となっていました。

今回の改正では、都道府県単位・市町村単位での実行計画の拡充と策定が求められ、実施目標の設定も明記されたほか、地域の脱炭素化を促進する促進区域の設定も促しています。また、地域脱炭素化促進事業計画の認定制度が導入され、認定を受け事業を行う事業者は関連法の手続きがワンストップで受けられ、事業を円滑に進めることができます。

企業の温室効果ガス排出量情報のデジタル化とオープンデータベース化

エネルギー使用量で一定の条件を満たす事業者には、温室効果ガスの排出量を算定し報告する義務があります。改正以前は紙媒体で行っていたため膨大な時間と手間を要していましたが、改正後は原則電子システムによる報告となり、報告から公表までの期間が短縮されます。また、開示請求なしで閲覧でき、ESG評価の面でもプラスに働いています。

改正温対法の詳細はこちらの記事から確認できます。

2021年改正温対法の3つのポイントを解説|地球温暖化対策の切り札

第6次エネルギー基本計画(2021年閣議決定)

第6次エネルギー基本計画は前年の2050年カーボンニュートラル宣言、また2021年4月にアメリカ主催の気候サミットで「温室効果ガスの排出量を2013年比で、2030年度に46%削減、さらに50%の高みを目指す」ことを表明したことから、第5次エネルギー基本計画で定めた目標を大幅に更新した内容となりました。

エネルギー基本計画は日本のエネルギー政策の道筋を示す目的があり、この計画を基に関連法が検討されたり改正されたりしています。第6次では、再生可能エネルギーの目標が引き上げられ、省エネにもより一層の努力を課しており、日本全体で総力を挙げて脱炭素を達成していくことが求められています。

各電源の比率目標

  • 再生可能エネルギー:36〜38%(第5次:22〜24%)
    • 太陽光:14〜16%
    • 風力:5%
    • 地熱:1%
    • 水力:11%
    • バイオマス:5%
  • 火力発電:41%(第5次:56%)
    • LNG:20%
    • 石炭:19%
    • 石油等:2%
  • 原子力発電:20〜22%(第5次据え置き)
  • 水素・アンモニア:1%(新規)

省エネ目標:約6,200万kl(第5次:5,030万kl)

第6次エネルギー基本計画はこちらの記事でも紹介しています。

2021年第6次エネルギー基本計画が閣議決定|再生可能エネルギーの比率は36~38%

省エネ法(2022年改正)

省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)はオイルショックを契機として、燃料や熱、電気を合理的に活用するために1979年に制定されました。

太陽光発電などの再生可能エネルギーは対象ではありませんでしたが、2022年5月に成立した改正省エネ法では新しく対象に追加されます。このほか、工場等で使用するエネルギーの化石エネルギーから非化石エネルギーへの転換の推進や、水素・アンモニアという次世代燃料の利用促進といった第6次エネルギー基本計画に沿った内容に改正されます。

今回の改正で、企業には太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギー由来の電気を取り入れることが求められるため、太陽光発電の導入や非化石証書の購入、再エネ電力プランへの切り替えなどを検討する必要がありそうです。

 

脱炭素時代に企業はどうする?求められる資質と成功のための取り組み

パリ協定から始まった脱炭素の波は、瞬く間に世界中に波及し、数多くの枠組みや体制が構築されていきました。日本においても、カーボンニュートラル宣言が為され、パリ協定と併せて法律に明記されたり、エネルギーの基本計画が更新されたりと、脱炭素を推し進めるための整備が急ピッチで進められています。

この脱炭素の潮流において、企業が果たす役割は非常に大きく重大で、企業が脱炭素に取り組むことは、とりわけ優先すべき経営課題として広く認識されています。規模の大きな企業、環境や社会に影響を与える事業を展開する企業ほど、より多くの責任があります。中小企業も例外ではありません。

脱炭素が経済・社会の本流となる時代において、企業に求められる資質や成功するための取り組みをご紹介します。

二酸化炭素の排出抑制

日本の温室効果ガスの約8割が産業部門から排出されていること、RE100やSBT、TCFDが世界中で大きな影響力を持っていることからも、これからの企業は自社で排出する温室効果ガス、とりわけ二酸化炭素の排出に敏感である必要があります。

企業が二酸化炭素の排出を抑制し、最終的な脱炭素の実現を目指すために最初に取るべき施策は、二酸化炭素の排出量の算出です。どこから、どれだけ、いつから、いつまで、といったようにCO2を排出している事業を特定し、事業の活動量と排出係数で算出します。ソフトウェアを導入することで、二酸化炭素の排出をリアルタイムで見える化することもできます。

その後、該当事業で使用している機器を省エネ性能の高い機器に買い替えたり、活動を見直したりして省エネに努めます。これは自社で排出する二酸化炭素の排出抑制の例で、このほかにも自社で使用する電気の非化石化、サプライチェーンでも同様の取り組みを実践するなどして脱炭素化を目指していきます。

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追加性のある再エネ電気の使用

自社で使用する電気の非化石化の方法には、太陽光発電などの再生可能エネルギー設備の導入、再エネ電気プランへの切り替え、非化石証書の購入があります。これらの内、追加性があると認められるのは再エネ設備の導入です。

追加性とは、全く新規に再エネを供給することを指し、それまで世界に存在していなかった再エネ価値を新たに生み出す、という面で他の脱炭素化手法より価値があります。電力会社の再エネプランと非化石証書はすでにある再エネ発電所の電気を扱っているため、追加性がある施策ではありません。

追加性はRE100やSBT等でも重要視されており、自社で何らかの再エネ設備を導入することで、関連企業からの評価が上昇するかもしれません。

ESG・DXの強化

ESGとDX(Digital Transformation)は脱炭素に限った話ではなく、企業経営全般に関わります。脱炭素社会において、脱炭素化の手法だけ取っていれば良いという話ではもちろんなく、ESGのSocialとGovernmentの要素、データに基づいた経営手法、デジタルによって効率化された業務など、いま社会が求めている経営を実践していかなければなりません。これら経営手法に加えて、脱炭素への取り組みで経営をアップデートするGX(Green Transformation)という概念も浸透しつつあり、時流を読んだ経営の展開が求められています。

人材の育成・確保

デジタル人材という言葉が一般化したように、DXを推進するためにはデジタルに精通した人材の育成、確保が欠かせません。企業の脱炭素の実現にも同様のことが言えます。二酸化炭素排出量の算定、省エネ、再エネ設備の導入、非化石証書の購入、継続的なフォローなど、脱炭素の実現には事業や部署をまたいで会社全体を見渡す視野や実行力、統制力のある人材が必要です。ハード面での脱炭素化を進めるとともに、脱炭素人材のリクルーティングも欠かせません。

 

脱炭素社会の到来は、企業にとって短期的には設備の導入や人材の育成・確保といった面で、コストがかかるかもしれませんが、長期的には新規事業の開拓や新規取引先・顧客の獲得、企業価値向上といったビジネスチャンスの拡大に繋がります。少なくとも脱炭素が達成される今世紀後半までは脱炭素の潮流は続いていきますので、早め早めに実践し先発優位を取られてみてはいかがでしょうか。

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