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中小企業が取り組むべき脱炭素経営のメリット・デメリットとは?

脱炭素 更新日: 2022.10.27

昨今、企業の間でも脱炭素の取り組みが進んでいますが、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
脱炭素経営とは、「脱炭素」の考え方に基づいて企業の事業活動における温室効果ガスの排出削減を目指し経営戦略や事業方針を策定することです。2020年当時の菅首相が行った「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」という所信表明により日本でも脱炭素化が進んでいます。


脱炭素についてはこちらの記事をご覧ください。



いまさら聞けない脱炭素と企業の関係|脱炭素で企業はどう変わる?

いまさら聞けない脱炭素と企業の関係|脱炭素で企業はどう変わる?

2020年10月に当時の菅首相が表明した「2050年カーボンニュートラル宣言」により、諸外国に遅れながらも日本も「脱炭素化」に大きく舵を切りました。脱炭素社会の実現のためには、温室効果ガス排出量の8割以上を占める産業部門の削減が不可欠で、企業の取り組みが重要視されています。


中小企業が脱炭素に取り組むべき理由とは?

脱炭素の取り組みは、いまや大企業のみならず中小企業にも求められます。その背景には世界的な脱炭素の潮流のみならず、取り組まないことがさまざまなリスクになり得ることが挙げられます。

世界的な脱炭素の潮流

近年の脱炭素の潮流は2015年に合意に至ったパリ協定に源流があります。パリ協定では、世界の平均気温を産業革命以前から2℃未満、できれば1.5℃未満の上昇に保つこと、そして温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスを取ることを掲げています。この合意に基づいて、各国がカーボンニュートラルの目標を設定し、その実現に向けてさまざまな取り組みを展開しています。

RE100:企業が自らの事業の使用電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアチブ。国際NGO(The Climate Group CDP)が運営。
SBT:パリ協定の目標達成を目指した削減シナリオと整合した目標の企業による設定、実行を求める国際的なイニシアチブ。国際NGO(CDP,WRI,Global Compact WWF)が運営
TCFD:投資家などに適切な投資判断を促すために、気候関連財務情報開示を企業などへ促進することを目的とした民間主導のタスクフォース。主要国の中央銀行、金融監督当局、財務省など代表からなる金融安定理事会(FSB)の下に設置。

これらの取り組みの広がりの1つとしてESG金融の進展があります。
ESG金融とは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)という非財務情報を考慮して行う投融資のことを指します。ESG投資は世界全体のESG投資残高に占める日本の割合は2016年時点で約2%にとどまっていましたが、その後4年で国内のESG投資は5.8倍となり2020年には世界全体の約8%になっています。
こうした広がりによって、企業が気候変動に対応した経営戦略の開示、国際イニシアチブへの加盟が、投資家などへの脱炭素経営の見える化を通じて企業価値の向上につながります。

営業活動へのリスク増大

現在は脱炭素に取り組んでいることが評価されていますが、日本も今後、2050年カーボンニュートラルの実現に向けてますます脱炭素化が加速していくことを考えると、脱炭素に取り組むことは、近い将来、企業にとってスタンダードになり得ます。
そうした世の中で、脱炭素に取り組んでいないことはマイナス要因となり、脱炭素に取り組んでいないがために、今まで取引のあった企業から取引を断られてしまったり、大手企業のサプライチェーンから外されてしまったりといった負の影響が発生することが予想されます。脱炭素化しないことによる取引停止、新規引き合いの減少、売上の減少などが現実になりつつあります。

コスト増加のリスク増大

本格的な炭素税の導入議論が日本でも進んでいます。炭素税とは、環境破壊や資源の枯渇に対処する取り組みを促す「環境税」の一種であり、具体的には石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料に炭素の含有量に応じて税金がかかります。
この炭素税が導入されれば、化石燃料由来のエネルギーを使うことに税金が上乗せされ、調達コストが増加します。そのほかにも電気代高騰によりコスト増加のリスクもあります。

脱炭素経営のメリット

脱炭素経営のメリットは「優位性の構築」「光熱費・燃料費の削減」「社員のモチベーション向上や人材獲得力の強化」「資金調達における優位性獲得」の5つが挙げられます。

1.優位性の構築

グローバルに事業を展開する企業は、脱炭素の潮流に敏感で自社の排出量削減を進めるだけでなく、サプライヤーに対しても排出量削減を求める傾向が強まりつつあります。
たとえば、Appleはサプライチェーンと製品全体で排出する二酸化炭素を実質ゼロに抑える「カーボンニュートラル」を2030年までに達成する公約を掲げています。この公約に応じてApple向けの生産を行っている国内企業では再エネ調達が進められています。
そのほかにも、トヨタ自動車は直接取引する世界の主要部品メーカーに対し、2021年の二酸化炭素(CO2)排出量を前年比3%減らすよう求めています。取引先にCO2の削減を取引条件にはしていませんが、将来的には部品会社の選別にもつながることが予想されます。
脱炭素経営の実践は、こういった脱炭素の取り組みを実践する企業に対して訴求力の向上につながります。

2.光熱費・燃料費の削減

脱炭素経営に向けて、エネルギーを多く消費する設備の更新や、プロセスの見直しを進めていくことで、光熱費・燃料費の低減につながります。
また、再エネ電源を自社で保有することで電気代の削減が可能となり、電気料金の高騰リスクを減らすことができます。

3.社員のモチベーション向上や人材獲得力の強化

脱炭素の要請に対応することによる、社員のモチベーション向上や人材獲得力の強化です。気候変動という社会課題の解決に対して取り組む姿勢を示すことによって、社員の共感や信頼を獲得し、社員のモチベーションの向上につながります。
また、脱炭素経営に向けた取り組みは、気候変動問題などの環境問題に関心の高い人材から共感・評価され、「この会社で働きたい」と意欲を持った人材を集める効果が期待されます。実際のところ、こういった社会課題への貢献を就職先の条件の 1 つに挙げる学生は増加傾向にあり、「エシカル就活」といった言葉も登場しています。
脱炭素経営は金銭的なメリットだけでなく、社員のモチベーション向上や人材獲得を通じて、 企業活動の持続可能性向上をもたらします。

4.資金調達における優位性獲得

金融機関においても脱炭素化に向けた動きが加速しつつあり、融資先の選定基準に地球温暖化対策への取り組み状況を加味されたり、企業価値を測る材料として財務情報に加えて環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)が考慮して投融資が行われています。ESG投資は日本においても年々増加傾向にあり、ESGの観点を考慮した経営を行うことで投資家や金融機関の優位性を獲得できます。

脱炭素経営のデメリット

初期費用や維持費がかかる

脱炭素を実現するためにさまざまな設備を導入、刷新する必要があるため初期投資が必要となります。電気の再エネ化に関していえば、自社の屋根上や敷地内に太陽光発電を設置するだけでは消費電力のすべてを賄うことは難しいことが多く、オフサイトPPAや自己託送を利用した追加の電源確保や、環境価値付き電力の購入が必要となります。
しかし、自家消費の太陽光発電設備の導入には補助金や優遇税制の制度を活用できます。補助金や優遇税制を利用することで、初期投資額を抑えられ月々の電気代の削減をすることで投資回収を早められます。

令和4年度に利用できる補助金や優遇税制についてはこちらの記事をご覧ください。



【令和4年度補助金】太陽光発電導入で活用できる補助金

【令和4年度補助金】太陽光発電導入で活用できる補助金

企業が令和4年度に導入する自家消費型太陽光発電システムや蓄電池に使える補助金を6つご紹介します。 自家消費型太陽光発電は、電気代削減や脱炭素経営の推進などのメリットで注目されている、太陽光発電で発電した電気を自家消費する太陽光発電システムです。


推進人材の確保が困難

脱炭素を実現するためには、次の章で解説しているように多くのステップがあり、専門知識や各部署との調整力、会社全体を巻き込んだ実行力が求められます。脱炭素の推進が始まったのはごく最近のことで、関連事情に精通した人材は限られ、部署をまたいだ調整力と実行力を持つ人材となると、さらに育成・採用の難易度は上がります。
担当部署を設け専任担当を任命するだけでなく、企業のトップが自ら旗振り役となり、トップダウンによる意思決定をしていくことが、脱炭素経営実現の近道です。

脱炭素化に向けた計画策定の手順

温室効果ガス排出量の大幅削減を進めるためには、省エネ対策のみではなく、生産設備も含めた化石燃料消費の抜本的な見直しが必要です。
しかし、脱炭素は簡単に達成できるものではなく長期的に実践していくことが必要です。脱炭素を何から実践したらいいかわからないということであれば、以下の5つのステップから脱炭素の計画策定にお役立てください。

1:長期的なエネルギー転換の方針の検討

燃料消費に伴う温室効果ガス排出量を、省エネ対策のみで大幅に削減することは困難であり、エネルギーの種類を温室効果ガスがゼロもしくは小さいものに転換していくことが必要になります。したがって、脱炭素化の検討をはじめるにあたっては、主要設備についてエネルギー転換の方針を検討することが重要になります。
エネルギー転換の方法にも技術開発の進捗状況や導入コスト、関連インフラの普及状況などに応じて、一足飛びにエネルギー転換を図ることが難しい場合も想定されます。こうしたケースでは、段階的に転換を図ることも検討が必要です。
たとえば、ガソリン自動車から電気自動車への転換が当面難しい場合については、5〜10 年以内の当面の対策として、一旦ハイブリッド自動車を導入するようなことです。

2:短中期的な省エネ対策の洗い出し

先ほど検討したエネルギー転換の方針を前提に、短中期的な省エネ対策を検討します。エネルギー転換を行う既存設備の運用改善や新たな設備の導入などの内容や時期を踏まえながら、エネルギーロスの低減を測ります。

3:再生可能エネルギー電気の調達手段の検討

ここまででも温室効果ガスの大幅な削減が期待できますが、自社の削減目標に届かない場合には、自社で消費する電力を再エネに切り替えることでより多くの温室効果ガスの削減ができます。

再エネ電気の調達には、さまざまな方法があります。
●小売電気事業者との契約
電力会社から再エネ100%の電力を購入する。
長所
・取引コストが相対的に低い
・導入までのスピードが早い
短所
・既存の再エネ発電所からの電気を供給するため、追加性にかける
・契約電力会社の再エネ調達力に依存するため将来の調達リスクがある

●自家消費型太陽光発電の設置
発電設備を屋根上や敷地内に設置し、発電した電力を自社で消費する。
長所
屋根や遊休地の活用が可能。
発電設備を新たに設け再エネ価値を設けるためRE100などで重要視される追加性がある。
停電対策ができる。
導入に補助金や優遇税制の活用ができる。
長期的に電気代の削減効果を得られる。
短所
初期費用がかかる。
稼働まで期間を要するため即座に調達できない。
設置場所の確保が必要。
メンテナンスが必要。

●PPA(第三者所有モデル)
第三者が発電設備を事業所内(オンサイト)または遠方の土地(オフサイト)に設置し、発電した電力を購入する。
長所
初期費用0で導入ができる。
維持費、メンテナンス費がかからない。
短所
契約期間は15年〜20年と長期。
契約期間中は移転ができないなどの規制がある。

PPAについてはこちらの記事をご覧いただくと理解が深まります。


PPAとは?0円で太陽光発電システムが導入できる仕組みを解説します

PPAとは?0円で太陽光発電システムが導入できる仕組みを解説します

「PPA」という単語を見聞きしたことはございますでしょうか。初期費用、ランニングコストがともに0円で太陽光発電システムが導入できる「PPAモデル」で知られ、0円設置と聞くと家庭での導入を想像されるかもしれません。最近は企業においてもPPAを活用して、自家消費目的の太陽光発電システムを導入したり太陽光発電で発電した電気を購入したりする取り組みが広がっています。


●リース
リース事業者が発電設備を事業所内の屋根・敷地などに設置し、リース料を支払う
長所
基本的に初期投資0
維持管理・メンテナンスの費用が発生しない
自家消費しなかった電気は売電できる
短所
自由に交換・処分ができない
長期契約である発電がない場合でもリース料を支払う必要がある

●再エネ価値の購入
自然エネルギーの電力が生み出す環境価値を証書で購入
長所
導入までのスピードが早い。
電力購入先の切り替えなしに再エネ価値を調達できる
短所
価格変動があり、相対的に高価
追加性に欠ける

自治体や金融機関、地域との連携

国が選定した脱炭素先行地域には、地方自治体や地元企業・金融機関が中心となり地域の特性に応じて再エネを最大活用し、民生部門の電力消費に伴うCO2排出の実質ゼロを2030年度までに達成することが求められています。
脱炭素先行地域には、再エネ設備の導入に加え、再エネ利用最大化のための基盤インフラ設備(蓄電池や自営線)や省CO2など設備の導入が交付金によって支援されます。そのため、地域の自治体が独自に支援制度を用意している可能性もあるため、自治体へ相談してみるといいでしょう。

施策の精査

設備更新や導入には、まとまった初期投資がかかるほか、再エネ電気メニューへの切替を行ったり電化などのエネルギー転換を行う場合にも、光熱費・燃料費が上昇する可能性があります。これらの費用が脱炭素経営のメリットに照らし合わせて許容できるか検討が必要です。
ただし、設備投資については補助金や優遇税制を活用することで負担軽減の可能性を併せて検討するといいでしょう。

脱炭素経営の実践には、電気の再エネ化を進めることが必要です。電力プランの切り替えによる再エネ電気の導入方法もありますが、発電事業者の再エネ調達力に依存していることや価格の変動リスクが含まれています。
自社で発電所を持つことは電気代削減による投資回収につなげられるほか、導入時にも補助金や税制優遇を利用することができます。また、新たに再生可能エネルギーを生み出すことでRE100やSBTなどで重視される追加性もあります。脱炭素の一歩として電気の再エネ化を検討してみてはいかがでしょうか。

 

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