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2021年改正温対法の3つのポイントを解説|地球温暖化対策の切り札

法制度 更新日: 2022.04.12

国内における地球温暖化対策を推進する地球温暖化対策推進法(通称温対法)の改正案が2021年3月2日に閣議決定され、同年5月26日に参議院において可決、これにより改正温対法が成立しました。2020年10月に菅首相が宣言した「2050年までのカーボンニュートラルの実現」を初めて法律に明記したことで、政府目標の裏付けができた形です。今後、地球温暖化対策の政策継続性が一層高まり、国や自治体、企業、個人が一体となって脱炭素化、地球温暖化対策を推進していくこととなります。

施行は基本理念の新設が公布日である2021年6月2日と同日、地方自治体や企業の地球温暖化対策の推進策の策定に関わる条文については公布日から起算して1年以内とされています。

 

 

改正温対法の3つのポイント

今回の改正は大きく3つのポイントに分けられます。「基本理念の新設」「地域の脱炭素化の促進」「企業の脱炭素化の促進」です。法律として明確な目標が定められ、地球温暖化対策のための脱炭素社会の実現や温室効果ガスの排出削減といった政策の確実性が担保されたという点において意義のある改正です。

1.パリ協定およびカーボンニュートラル宣言を反映した基本理念の新設

前回の法改正(2016年5月公布)以降、世界ではパリ協定の締結やIPCCによる1.5度特別報告書の公表、そして国内における2050年カーボンニュートラル宣言など地球温暖化対策をめぐる状況が大きく変化してきています。こうした世界の潮流に適合しつつ国だけでなく地方自治体や事業者、企業、個人が連携した地球温暖化対策および脱炭素化への取り組みを促進するために、以下の条文が新たに加えられました。

地球温暖化対策の推進は、パリ協定第二条1(a)において世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏二度高い水準を十分に下回るものに抑えること及び世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏一・五度高い水準までのものに制限するための努力を継続することとされていることを踏まえ、環境の保全と経済及び社会の発展を統合的に推進しつつ、我が国における二千五十年までの脱炭素社会(人の活動に伴って発生する温室効果ガスの排出量と吸収作用の保全及び強化により吸収される温室効果ガスの吸収量との間の均衡が保たれた社会をいう。)の実現を旨として、国民並びに国、地方公共団体、事業者及び民間の団体等の密接な連携の下に行われなければならないものとすること
  1. パリ協定の2℃および1.5℃目標を踏まえた環境の保全と経済および社会の発展の統合的推進
  2. 2050年までの脱炭素社会の実現
  3. 国民・国・地方公共団体・事業者・民間団体等の密接な連携

パリ協定およびカーボンニュートラル宣言を法律に明記することにより、政権交代による政策の一貫性欠如が防止できます。地球温暖化対策は全世界規模のオペレーションであり、国だけのオペレーションによって達成できるものではありません。地方自治体や民間の事業者、企業、そして個人が相互に連携して取り組んでいく必要があり、今回の改正温対法によって法律上の確実性を得られたことにより、各々が主体となるオペレーションに見通しが立てられ、その取り組みとイノベーションが加速していくと予想されます。

2.地域の脱炭素化を推進する事業促進計画・認定制度の創設

地方公共団体は温対法に基づき地域における地球温暖化対策を推進するために「地方公共団体実行計画」を策定するものとされています。しかしながら、実行計画で定める再エネの利用促進などの施策についてはその実施目標の設定までは求められていません。今後、ゼロカーボンシティを含めた地域の脱炭素化を実現していくためには、再エネの活用が需要であり、その施策実施の目標を追加するなどの実行計画制度の拡充が図られます。また、再エネの導入に際した地域の合意形成を円滑化し、地域脱炭素化促進事業を推進する仕組みを創設します。

これらが法律に明記されたことで、地方自治体も実効性を伴った脱炭素化や地球温暖化対策の計画を策定し、その目標達成に責任を持ってチャレンジする必要性が生まれました。

また、2025年度までに地方公共団体実行計画の策定率を100%となるように目指します(2019年度で約30%)。全国1,718自治体で期限を設けて脱炭素宣言をしている自治体は420で、全体の約24%です(2021年7月9日時点)。

1.都道府県の実行計画制度の拡充

  1. 実行計画の実効性を高めるため、都道府県・政令市・中核市の実行計画において、再エネ利用促進等の施策(①再エネの利用促進②事業者・住民の削減活動促進③地域環境の整備④循環型社会の形成)に関する事項に加え、施策の実施に関する目標を追加する(第21条第3項)。
  2. 都道府県の実行計画において、地域の自然的社会的条件に応じた環境の保全に配慮し、省令で定めるところにより、(地域脱炭素化促進事業について市町村が定める)促進区域の設定に関する基準を定めることができる。(第21条第6項及び第7項

2.市町村による実行計画の策定

  1. 市町村(指定都市等は除く。)は、実行計画において、その区域の自然的社会的条件に応じて再エネ利用促進等の施策と、施策の実施目標を定めるよう努めることとする(第21条第4項)。
  2. 市町村は1.の場合において、協議会も活用しつつ、地域脱炭素化促進事業の促進に関する事項として、促進区域地域の環境の保全のための取組地域の経済及び社会の持続的発展に資する取組等を定めるよう努めることとする(第21条第5項)。

3.地域脱炭素化促進事業の認定

  1. 地域脱炭素化促進事業を行おうとする者は、事業計画を作成し、地方公共団体実行計画に適合すること等について市町村の認定を受けることができる(第22条の2)。
  2. 1.の認定を受けた認定事業者が認定事業計画に従って行う地域脱炭素化促進施設の整備に関しては、関係許可等手続のワンストップ化や、環境影響評価法に基づく事業計画の立案段階における配慮書手続の省略も可能といった特例を受けることができる。(第22条の5〜第22条の11)。

以上の条文にあるように、各自治体が目標や実施施策を設定しその達成と取り組みに努めることが求められます。また、既存の地方公共団体実行計画制度を拡充する形で地域脱炭素化促進事業計画の認定制度が導入され、この認定を受け地域脱炭素化促進事業を行う事業者は、自然公園法・温泉法・廃棄物処理法・農地法・森林法・河川法の関連手続きをワンストップで受けられ、手続きの円滑化と効率化を図れます。

3.企業の温室効果ガス排出量情報のデジタル化とオープンデータベース化

今回の改正以前から、全ての事業所の原油換算エネルギー使用量合計が年間1,500kl以上となる事業者、また温室効果ガスごとに全ての事業所の排出量合計が年間3,000t以上となる事業者について、事業者自身が温室効果ガスの排出量を算定し報告する義務があります。しかし、現状は紙媒体中心の報告であるため、報告から公表まで約2年を要し、公表される情報も企業単位であり、事業所単位の情報は開示請求手続きを踏まなければ開示されない仕組みです。

日本全体での脱炭素化の実現のために、地域企業の脱炭素経営の支援を推進していくことも併せて重要で、企業の脱炭素化に向けた取り組み状況の見える化や、地域企業への支援策を講じることで企業の脱炭素経営を促進していきます。

1.温室効果ガス排出量の算定報告公表制度のデジタル化

今回の改正により、企業の温室効果ガス排出量削減に向けた取り組み状況は、原則として電子システムによって報告するものとし、これにより報告から公表までの期間が短縮されるだけでなく開示請求なしで情報を閲覧でき、企業の排出量などの情報がより迅速かつ透明性の高い形で見える化されることが期待されます。ESG評価の上でも極めて重要な要素であり、迅速かつ透明性のある情報開示がステークホルダーや投資家からの信用と信頼を獲得することにつながります。

2.事業者向けの啓発・広報活動の明記

また、地域地球温暖化防止活動推進センターの事務として、温室効果ガスの排出量削減のための事業者向け啓発・広報活動が追加されます。

 

企業が省エネ化そして脱炭素化に取り組むためには、まずGHG(温室効果ガス)の排出量の把握、次いで省エネ・再エネ商材の導入が効果的です。
以下から、企業が取り組める脱炭素経営手法をまとめたハンドブックをダウンロードいただけます。


 

改正温対法の背景

今回の2021年度改正の背景には、ここまで触れてきたようにパリ協定の2℃・1.5℃目標および2020年10月の「2050年カーボンニュートラル宣言」が挙げられます。世界の潮流が数年前から環境保全やサステナビリティに流れていく中、日本はパリ協定の批准に遅れ、カーボンニュートラルの宣言にも遅れ、エネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの比率も低いまま、国としての国際的な競争力の維持・強化とイニシアチブの形成に後手を踏んできました。2020年のカーボンニュートラルの宣言でようやく土俵に上がり、今回の改正温対法で達成への道筋を示したと言えます。

地域においては、国のカーボンニュートラル宣言に先立って「ゼロカーボンシティ」を宣言する自治体が現れ、早くからカーボンニュートラルに取り組む自治体も存在しました。こうした自治体は増加傾向にあり、実効性を伴った形でさらに促進させるべく、今回の改正では地方自治体に対する目標と目標を達成するための施策の設定に重きが置かれた印象です。

企業においては、ESGの観点から気候変動に関する事業活動の情報開示や目標設定などの重要性が高まっているだけでなく、SBTTCFDRE100などといった国際イニシアチブに参画する企業数が日本は世界的にも高い水準にあり、企業での取り組みでは世界をリードしています。

TCFD賛同機関数 ※2021年6月25日時点

気候関連の財務情報を開示するタスクフォース。

世界2,271機関(うち日本428機関)
→世界第1位(アジア第1位)

SBT認定企業数 ※2021年5月31日時点

パリ協定が求める水準と科学的に適合した、5年〜15年先を目標年として企業が設定する温室効果ガス排出削減目標。

世界729社(うち日本102社)
→世界第2位(アジア第1位)

RE100参加企業数 ※2021年7月21日時点

企業の事業活動におけるエネルギーをすべて再生可能エネルギーで賄うとする国際イニシアチブ。

世界320社(うち日本58社)
→世界第2位(アジア第1位)

RE Action参加団体数 ※2021年7月27日時点

日本独自のRE100プラットフォーム。中小企業や地方自治体などが参加でき、RE100同様に再エネ100%を目指す。

157団体

改正温対法の意義

パリ協定および2050年カーボンニュートラル宣言を法律の基本理念に新設したことは画期的で、今後、政権交代によって政治動向が変化した場合でも、政策レベルでの影響を緩和し、温室効果ガス排出削減という政策が継続していくという確実性が高まりました。企業や地方自治体にとっては、政権交代や政府の方針転換が事業収益や自治体運営に決して小さくない影響を及ぼすため、今回の改正で地球温暖化対策という点においては今後の予見可能性を得られ、大胆な事業拡大や新規事業開拓、イノベーションの促進が期待できます。

また、地方自治体レベルに再エネ促進の目標と目標達成の施策を設けることを課したことも重要です。これまでは、全国の地方公共団体のうち30%しか実行計画を策定していないことからもわかるように実効性に欠ける計画でした。目標達成にコミットする必要性と再エネ推進策の裁量を拡大したことで、自治体の実効性ある施策が期待されます。

新設された基本理念に「国民」が含まれたことも前例のないことです。国や地方自治体、企業だけでなく、一個人としても脱炭素社会の実現に向けて連携して取り組んでいくことを求めています。

環境省は、基本理念の創設は、政策の方向性や継続性を明確に示すことで、あらゆる主体(国民、地方協団体、事業者等)に対し、予見可能性を与え、取り組みやイノベーションを促進するとしています。地球温暖化という難題に総力を挙げて取り組む政府の意思を示しました。我々もすでに傍観者ではなく、当事者として向き合っていかなければなりません。

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