病院の電気代の特徴と削減する方法
電気料金 更新日: 2022.10.28
病院は、地域の方々に質の高い医療体制を提供することが重要な役割として挙げられます。そのため、空調設備や医療機器など院内環境に電気が安定供給され、患者にとって最適な医療・療養環境を維持することが不可欠です。
しかし、病院を経営していく上では電気代削減などのコスト削減もおろそかにはできません。安定したインフラ基盤を持ったで医療体制を提供し続けるために、今回の記事では病院の消費電力の特徴と電気代削減方法についてご紹介します。
病院の電気代の相場は
病院の電気代は病棟の大きさ、診療科により変わりますが、一般的に病院の規模に比例して照明設備、空調設備や医療設備の導入量も増えることから、より大きな病院ほど電気代も高くなります。
平成16年に環境省より発表された資料によると、延べ床面積75,000㎡程度の大型病院(医科大学の外来棟)の電気代が1年間で1億円程度となるという事例があります。これは約1,000世帯分の電気代に相当することになります。そのような中で病院経営を進めていくとなると省エネによる経費の削減が重要となってきます。
電気代高騰により病院経営にも大きな影響
昨今の電気料金の高騰は、家庭だけでなく病院や医療機関も大きな影響を受けています。
2021年6月の全国の特別高圧の平均料金単価は10.54円でしたが、2022年6月には15.46円にまで上昇しており、約50%もの電気代の高騰が1年間で発生しています。大病院では年間1億円にも及ぶという事例があることを考えれば、この上昇率は決して無視できない高騰と言えます。電気代の高騰は2021年から続いており、電気代高騰の原因には「燃料費調整単価の値上がり」「電気料金プランの単価上昇」「市場価格の高騰」が挙げられます。
山形県保健医協会が2022年に行った緊急影響調査によると、診療所の82%、有床診療所の100%、病院の97%が「電気代が上がった」と回答しました。そして、電気代が上がったと回答した内の診療所と有床診療所で約4割、病院では約8割が「前年同月比で20%を超える上昇」と回答しました。さらに、新電力会社の大幅な値上げや事業撤退による「電力難民」問題に直面し最終保障供給に移行せざるを得ない医療機関が存在することが明らかになりました。
病院は患者の命を守るために24時間稼働させておく必要がある設備や医療機器を多く導入しています。病棟内やICUに入院中の患者だけでなく、救急搬送される人へ適切な治療を行うために常時待機状態にする必要がある機器もあります。そのような中で電気代高騰が病院経営の経費を増加させています。病院は患者や利用者への価格転嫁が難しいため、地道な省エネ対策の推進が必要です。
病院のエネルギー消費の特徴と省エネ対策のポイント
病院はオフィスビルやスーパーマーケットなどの店舗とは異なり、24時間連続で稼働している設備が多く、設備としてもMRIをはじめとした高度医療機器が多いため消費電力量が大きいことが特徴として挙げられます。実際に(財)省エネルギーセンターがエネルギー消費構造把握のため、平成15年〜平成16年度に400床以上の病院47施設(公立含む)に対してヒアリング及び計測調査を実施し、部門別エネルギー消費量比率と用途別電力使用比率をまとめた図を見ていきましょう。
部門構成とエネルギー消費の特徴
以下の表が調査結果をもとに作成した部門別エネルギー消費量を示した図です。
- 面積比率:部門ごとの該当施設における床面積の比率
- 稼働時間:各部門における職員の平均執務時間
- エネルギー消費量比率:病院施設全体に対する各部門のエネルギー消費量をヒアリングや実測によって割り出した比率
部門 | 面積比率 | 稼働時間 | エネルギー消費比率 |
---|---|---|---|
病棟(病室・ICU、Nステーション、WC・汚物処理、デイルーム、廊下等) | 35% | 24h | 34% |
外来(玄関ホール、待合、診察室、処置室、WC等) | 13% | 9h | 11% |
中央診療部門(放射線部、検査部、手術部、中材部、特殊治療等) | 22% | 10h | 29% |
供給部門(薬局、洗濯、廃棄物処理、病歴など) | 8% | 10h | 8% |
管理部門(事務、医事、医局、会議室、売店、食堂など) | 10% | 9h | 8% |
厨房(入院食用主厨房) | 2% | 18h | 5% |
共有(昇降機、電気室、機械室など) | 10% | 24h | 5% |
部門の中でエネルギー消費が大きいのは、病室やICU、ナースステーションなどを管理する病棟部門と放射線や手術などを行う中央診療部門で、この2部門を合わせると全体の約6割のエネルギー消費を占めています。
病棟や共有部門は24時間の稼働であるのに対して、中央診療部門は病棟の半分以下の10時間の稼働で全体の29%を占めるため消費電力の大きさがわかります。
そして、こちらの表が病院の用途別電力使用比率を表した図です。
このグラフから病院の電力使用比率は照明・コンセントと空調・換気設備がともに3割前後で合わせて6割以上を占めています。空調設備や照明設備の節電が省エネ対策として有効だと考えられます。
各部門別エネルギー消費の特徴と省エネ対策のポイント
次に部門ごとの電力消費の特徴と電気代削減につながる省エネ対策についてご紹介します。
病棟部は空調設備による電力消費が多い
病棟は、病院内の面積に占める割合の大きさと24時間稼働していることからエネルギー消費量が部門間で最も大きいことがわかります。特に、空調設備による電力消費が大きいため、療養環境に配慮した上で冷やしすぎや暖めすぎに注意した適度な温度設定の省エネを心がけましょう。
また、可能な範囲で外気を取り入れたり、カーテンやブラインドの活用による遮光で空調設備の負担を軽減したりできれば、省エネ、電気代の削減につながります。
空調設備の他にも、照明の節電として人感センサーの導入や患者の歩行がないバックヤードの照明の間引きによる節電も省エネ対策になります。
外来部門は電力消費の比率は低いが空調設備の負担が大きい
外来は、稼働時間が短くエネルギー消費は全体の1割程度ではありますが、時刻により患者数の増減変化が大きく出入りが激しいことから外気侵入による空調設備の負担が大きいことが特徴として挙げられます。そのため、出入り口から直接外気が入らないように検討することが省エネ対策として有効です。
中央診療部門は高度医療機器の待機電力が電力消費を大きくしている
診療部門は稼働時間が短いものの、MRIをはじめとした夜間に停止できない高度医療機器が多いことにより待機電力が多く電力消費量が大きいことが挙げられます。省エネ対策としては、平日の夜間、休日の医療機器で電源が停止できる機器がないか再度検討することが挙げられます。
管理部門はOA機器利用が消費電力の大部分を占める
管理部門は一般オフィスと同様にコンピューターなどのOA機器の使用が中心で病院全体における消費量は10%程度となっています。管理部門の省エネ対策は基本的にオフィスと同じで、OA機器のつけっぱなしを避け、空調や照明をこまめに切ることが重要となってきます。また、カーテンやブラインドを活用して室内の気温を適温に保つことなど基本的な対策を行いましょう。
太陽光発電による電気代削減
節電による省エネ対策のほかに、電気代削減方法として自家消費型太陽光発電の導入があります。
太陽光発電で発電した電力を病院内で自家消費して電力会社から購入する量を減らすことで、電気代削減ができます。太陽光発電で発電した分の電力を消費しながら、足りない分については引き続き電力会社から供給されるため、電気が不安定になることもありません。
また、自家消費した電力分は再エネ賦課金や燃料調整費単価を負担する必要がない点もメリットとして挙げられます。
再エネ賦課金は電気料金にプラスされる形で電気の需要家が等しく負担しています。再エネ賦課金は年々上昇しており、再生可能エネルギーの普及は今後も進んでいくことから今後もさらなる値上げが予想されます。
燃料調整費は世界的に高止まりが続いており、電力会社各社で燃料調整費の上限が撤廃されるなど以前高値の水準で推移することが予想されています。
こうした電気料金高騰の影響を太陽光発電の導入により回避することができます。
まとめ
以上、病院・医療施設で電気代を削減する方法についてご紹介しました。病院では患者の命を守るために療養環境を適切に保つ必要があります。そのため、空調設備をはじめとした照明などの環境の維持に加え、救急搬送に対応するためにMRIなどの高度医療機器をいつでも使用可能な状態にしておく必要があります。電気代の高騰により、患者や利用者への価格転嫁が難しい病院は経営が圧迫され、省エネ推進による自助努力が必要となってきます。
太陽光発電は導入してすぐに大きな効果を期待できるとは限らず、長期的に運用することで得られるメリットが増大していきます。導入前に想定されるデメリットや注意点を明確にした上で、対策を講じましょう。導入後は定期的なメンテナンスを実施して長期的に電気代を削減する体制を構築すると良いでしょう。病院・介護福祉施設において太陽光発電を導入するメリットや設置事例などを以下で解説しています。導入にご興味お持ちでしたら合わせてご参照ください。