2025年度のFIT制度|屋根設置太陽光発電の買取価格を増額

法制度 更新日: 2025.02.03

2025年度のFIT制度(固定価格買取制度)の買取価格案が示されました。
10kW以上の屋根設置太陽光発電の区分を継続し、住宅用では最初の4年間を24円に、事業用では5年間を19円とする大胆な案が提案されています。採用されれば、設備投資の回収を今よりも数年早められます。

調達価格等算定委員会の暫定案ではあるものの、例年、委員会の案がそのまま最終決定されています。決定・公表は3月中旬頃になる見込みです。
詳細と論点についてまとめます。

今回のFIT制度の対象となる自家消費型太陽光発電システムの概要資料をダウンロードいただけます。

 

FIT制度(固定価格買取制度)とは?

まず初めに、FIT制度について簡単におさらいいたします。FIT制度とは「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(Feed-in Tariff)」の略で、再生可能エネルギーの普及促進のために2012年に運用が開始されました。太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーで発電された電力を、電力会社が一定の固定価格で買い取ることを定めた法律です。
太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電、バイオマス発電の5つのエネルギーが対象です。

太陽光発電システムの事業者は、発電した電気を10年または20年にわたって、固定の売電価格で電力会社に売電できます。
事業者にとっては、長期間にわたる固定収入が約束されることから、投資計画を立てやすい点が魅力で、一般家庭、企業を問わず数多くの事業者がFIT制度を活用して太陽光発電を導入しています。

火力発電や原子力発電などの他電源に比べ市場での価格競争力がまだ弱く、技術的にも成長段階にある再生可能エネルギーの電力を固定価格で買い取ることで、再エネ発電所を持つ発電事業者は市場での取引を回避でき、かつ長期の収支計画が立てられ、安定した事業運営が可能となります。

(参考)制度の概要|FIT・FIP制度|なっとく!再生可能エネルギー:経済産業省資源エネルギー庁

 

2025年度のFIT買取価格とこれまでの推移

2025年1月30日に開催された、FIT制度の買取価格等を議論する調達価格等算定委員会において、2025年度の屋根設置太陽光発電のFIT制度における買取価格(売電価格)が提案されました。

委員会では2026年度の調達価格も示され、他区分もまとめて以下の表の通りとなっています。正式な決定ではない暫定案ではありますが、例年は変更なく採用されています。

kWh単価 10kW未満 地上設置
10kW以上 50kW未満
地上設置
50kW以上 250kW未満
地上設置
250kW以上
屋根設置
10kW以上 50kW未満
屋根設置
50kW以上
2026年度 24円(~4年)
8.3円(5~10年)
9.9円 8.6円 FIP入札制 19円(~5年)
8.3円(6~20年)
2025年度 15円(~9/30)
※10/1~は2026年度単価を適用
10円 8.9円 FIP入札制 11.5円(~9/30)
※10/1~は2026年度単価を適用
2024年度 16円 10円 9.2円 FIP入札制 12円
2023年度 16円 10円 9.5円 入札制
※FIPは9.5円
※500kW以上はFIPのみ
10円(4/1~9/30)
12円(10/1~3/31)
9.5円(4/1~9/30)
12円(10/1~3/31)
2022年度 17円 11円 10円 入札制 左の区分に同じ
2021年度 19円 12円+税 11円+税 入札制 左の区分に同じ
2020年度 21円 13円+税 12円+税 入札制 左の区分に同じ
2019年度 24円oe26円 14円+税
※500kW以上は入札制
2018年度 26円or28円 18円+税
※2,000kW以上は入札制
2017年度 28円oe30円 21円+税
※2,000kW以上は入札制
2016年度 31円or33円 24円+税
2015年度 33円or35円 29円+税(4/1~6/30)
27円+税(7/1~)
2014年度 37円 32円+税
2013年度 38円 36円+税
2012年度 42円 40円+税
売電期間 10年 20円

(参照)FIT買取価格・期間等|資源エネルギー庁

10kW未満(住宅用)は9月分まで15円、10月以降は初期投資支援措置

10kW未満太陽光発電の令和7年度(2025年度以降)の調達価格・FIT売電価格10kW未満太陽光発電の2025年度FIT買取価格(出典)第102回調達価格等算定委員会-資源エネルギー庁

10kW未満(住宅用)太陽光発電の買取価格(FIT調達価格)は、大きな変更点があります。

2025年9月認定申請分まではすでに公表にある通りの15円/kWhですが、10月以降分については、最初の4年間を24円/kWh、5年目以降は8.3円/kWhとするようです。この買取価格は2026年度にも適用されます。
売電期間はこれまでと変わらず10年間です。

余剰売電比率の70%(自家消費比率30%)に変わりはなく、まず自家消費を前提とした価格設定です。

住宅への太陽光発電の導入は下落傾向にありながら、2023年度の想定値からシステム費用やランニングコストには目立ったコスト低下は見られませんが、屋根への設置を促すために、設備導入当初の売電価格を高めに設定することで、投資回収を早める狙いがあります。

地上設置低圧は10円、高圧250kW未満は8.9円

10kW以上太陽光発電の令和7年度(2025年度以降)の調達価格・FIT売電価格10kW以上太陽光発電の2025年度FIT買取価格(出典)第102回調達価格等算定委員会-資源エネルギー庁

地上設置10kW以上(事業用)太陽光発電の2025年度FIT買取価格は、地上設置型の10kW以上50kW未満の低圧区分は10円/kWhで2024年度から据え置きます。50kW以上250kW未満では8.9円/kWhと0.3円下落します。

10kW以上50kW未満では、自家消費率50%以上かつ災害時自立運転機能等を定めた地域活用要件が継続されますので、変わらず自家消費が前提の認定となります。

システム費用、土地造成費、接続費用などについて、2024年度の想定値から大きな変更はないと見られるため、FIT価格も据え置きか例年通りの下落幅となっています。

地上設置高圧は250kW以上はFIP入札制を継続

地上設置250kW以上太陽光発電の令和7年度(2025年度以降)の調達価格・FIT売電価格250kW以上太陽光発電の2025年度FIT買取価格(出典)第102回調達価格等算定委員会-資源エネルギー庁

250kW以上では、2025年度変わらずFIPの入札制のみ対象となります。2025年度の入札制における上限価格も公開されています。

屋根設置10kW以上は9月分まで11.5円、10月分以降は初期投資支援措置

2023年度の申請から登場した主に企業向けの10kW以上の屋根設置区分は、2025年9月までの認定申請分については11.5円/kWhで、10月以降分から、最初の5年間を19円/kWh、6年目以降は8.3円/kWhとする案が提案されています。この買取価格は2026年度にも適用されます。
売電期間は20年間です。

住宅用10kW未満の措置と同じく、屋根への太陽光発電設備の導入を拡大する目的で、こちらは企業への導入を後押しするものです。初期投資の回収を通常よりも早めることができ、製造工場や物流倉庫などでの電気代の削減。CO₂排出量の削減などに効果的です。

地上設置型に比べ土地造成費はかからないものの、屋根特有の事情を考慮しシステム費用は高めに見積もられています。

地上設置、屋根設置の区分によらず10kW以上50kW未満については、原則、自家消費型の地域活用要件が適用されます。災害時に地域に電源供与ができるように、自立運転が可能な設備と体制を整える必要があります。

(参照)別紙 令和7年度以降(225年度以降)の調達価格等についての委員長意見案|経済産業省資源エネルギー庁 第102回調達価格等算定委員会

 

屋根設置太陽光発電における初期投資支援スキームの詳細

2023年度の下半期から新設された10kW以上屋根設置における初期投資支援の特別措置が、2025年度の下半期から住宅用10kW未満にも拡大されます。企業の工場や倉庫の屋根への設置を想定した区分の創設でしたが、住宅にも広がった形です。

屋根設置区分の2025年度FIT調達価格

kWh単価 住宅用10kW 事業用10kW
2025年度 ~25/9/30 25/10/1~ ~25/9/30 25/10/1~
15円 24円(~4年)
8.3円(5~10年)
11.5円 19円(~5年)
8.3円(6~20年)
2026年度 24円(~4年)
8.3円(5~10年)
19円(~5年)
8.3円(6~20年)
売電期間 10年間 20年間

10月1日から単価の高い特別措置が適用されます。2026年度の認定申請分も同じ措置が講じられます。

屋根設置初期投資支援の認定申請要件

これまでの要件から変更はない見込みです。まずは住宅や事務所等で自家消費した後に、余った電力を売電する余剰売電が前提です。

  • 自家消費率:30%以上
  • 地域活用要件(10kW以上のみ対象):災害時などに自立運転が可能な機能を備え、給電が可能であることなど

屋根設置区分の設置背景

背景には、政府が掲げる2050年カーボンニュートラルの達成、さらに近い目標では2030年での温室効果ガス46%削減(2013年比)および2030年エネルギーミックスの再エネ比率36~38%という導入目標があります。この2030年目標の達成に向けては、現状の導入ペースでは達成不可能であることがすでに判明しており、さらに導入拡大を促すために2023年度に屋根設置型の太陽光発電の区分が設けられました。

また、昨今の電気料金の高止まりや燃料高騰への対応もあろうかと思います。太陽光発電の導入によって、電力会社から購入する電力量をできるだけ少なく抑え、家庭や企業における電力コストを低減し、家計や経営への圧迫を抑えることができます。

初期投資支援スキームの導入背景

太陽光発電システムの認定から住宅用では最初の4年間、事業用では5年間の売電価格を高く設定し、以降の価格を低く設定する「初期投資支援スキーム」の議論は、2024年10月の調達価格等算定委員会から行われてきました。

議論の出発点は、屋根設置太陽光発電を導入する事業者は、財務基盤や与信が小さい傾向にあることから、早期の投資回収を可能にするための措置というものです。
屋根設置太陽光発電の投資回収には、一般的に10年~15年の期間が必要で、事業用の設備となれば1,000万円を優に超える投資額であり、近年は金融機関の融資基準も厳しくなり、投資回収10年を超える計画では融資を受けづらくなっていることから、財政状況や経済性の観点によって導入を断念する企業も少なくありません。
設備導入の初期段階における買取価格を高く設定し、早期での投資回収を可能とすることで、建物屋根への導入を拡大させる狙いです。

高く設定される買取価格については、電気料金の水準に合わせられています。買取価格が電気料金よりも高いと、自家消費を極力せず売電した方が経済的メリットが大きくなってしまうため、買取価格は電気料金よりも同等程度か少し低い金額に設定されています。

 

FIT制度で屋根設置太陽光発電を最大限に活用する方法

屋根設置太陽光発電を有効活用する方法には、自家消費型太陽光発電がおすすめです。

自家消費型太陽光発電による発電電力の自家消費がお得

自家消費型太陽光発電とは、発電した電力を家庭や企業の事務所・工場などで消費する太陽光発電システムで、現在主流となっている方式です。屋根設置区分に自家消費要件があるように、まずは自家消費をできるだけして、余った分を蓄電池に蓄えたり、売電したりするというモデルです。

自家消費型太陽光発電の仕組み自家消費型太陽光発電の仕組み

近年は、FITの売電価格よりも電気料金の方が高い(売電価格の方が安い)状況が続いていますので、できるだけ自家消費をした方がお得です。

電気料金と事業用FIT価格の比較-2024

屋根FIT太陽光発電のメリットと注意点

注意点|自家消費率はできるだけ高める

まず大前提として、FITの活用有無に関わらず、多くの企業では自家消費率を高めた方が電気代削減による経済的メリットは大きいです。FITの高い買取価格で売電したとしても、それでも尚、自家消費です。
前章で触れたように、初期投資支援スキームの価格は電気料金の水準を超えないように設定されていますので、売電量を増やしたところで買電の電気料金と同等か低いくらいです。そのため、これまで通り発電した電気はできるだけ自社で使うことをおすすめします。

注意点|5,6年目以降の売電収入は大きく減少する

高い売電価格が4、5年間だけという点は、特に注意が必要です。投資回収を早めることはできますが、その後の売電収入は著しく減少し、それまでの期間通りの収入は得られなくなります。

注意点|補助金は活用できない

現在、自家消費型太陽光発電には環境省や国土交通省、また自治体から多様な補助金が展開されています。しかし、いすれもFIT制度を使った売電事業は補助対象外としており、FITを活用する場合に補助金は適用できません。
そして、多くの場合、FIT売電の経済効果よりも補助金を活用した方が投資回収は早められます。

注意点・メリット|発電量の最適点を見出す必要

売電比率を高く設定しすぎると、10年、20年の事業期間で見た場合に、本来得られたはずの経済メリットが得られない可能性があります。発電量と電気使用量、電気料金とFIT売電価格をよくシミュレーションし、経済メリットを最大化する発電量の最適点を見つけることが求められます。
逆に、最適点を見つけることができれば、これまで経済性の観点から導入を見送ってきた企業でも、経済性を担保した上での導入が可能です

さきに注意点から触れてしまいましたが、メリットももちろんあります。

メリット|投資回収の早期化が見込める

理論的に最も経済性がある導入は、発電した電気をすべて自社の工場等で消費する「完全自家消費」ですが、100%自社で使い切ることは現実的ではありません。太陽光発電の発電は天候に左右され不安定で、工場等での電気使用の時間帯によっては、どうしても余剰電力が発生してしまいます。
現在は、例えば、発電量の80%を自家消費し、余った20%は捨ててしまっていますが、FITの活用で20%分の売電収入を得ることができ、投資回収を早められます。

メリット|発電余剰をある程度気にせず、太陽光パネルを設置できる

自家消費率を高く保つために、屋根のスペース的に本来なら設置できるはずの太陽光パネルの枚数を減らし、発電能力をあえて落とすという措置を取ることがありますが、高単価なFITを活用するのであれば、追加で太陽光パネルを設置しても経済性を保てる可能性があります。ただし、注意点で触れた事項は考慮が必要です。

メリット 注意点
    • 投資回収の早期化が見込める
    • 発電余剰をある程度気にせず、太陽光パネルを設置できる
    • これまで導入を見送ってきた企業にも可能性が広がる
    • 20年間にわたり売電収入を得られる
    • 自家消費率はできるだけ高める
    • 自家消費率が小さいとCO₂削減効果も小さくなる
    • 5,6年目以降の売電収入は大きく減少する
    • 補助金は活用できない
    • 発電量の最適点を見出す必要
    • 認定申請の手間と申請費用等が増える

屋根FIT太陽光発電がおすすめの企業とおすすめできない企業

2025年度から従来よりも高めのFIT買取価格が設定されることで、活用を検討する企業もあるかと思います。しかし、前段でも触れたように、FITを用いて売る電気よりも電力会社から買う電気の方が高額なため、基本的には太陽光発電で発電した電気はFITで売るよりも自社で使った方がお得です。
企業における太陽光発電の導入で、最も経済的な活用例が完全自家消費である前提に変わりはありません。完全自家消費を前提とする中で、使い切れない余剰電力をFITで売電することで投資回収を早める使い方がおすすめです。

おすすめの企業

  • 太陽光発電システムの発電規模が低圧
  • 屋根の広さに比べて、電気使用量が小さい
  • 年間休日が多い=稼働日が少ない
  • 日中はあまり電気を使わない
  • 補助金の要件を満たさない/補助金は使わない

業種・業態例:診療所、小規模店舗、物流倉庫など

上記4つのポイント・業種業態は、いずれも太陽光発電の自家消費モデルとの相性があまりよくありません。電気をあまり使わないので自家消費よりも売電による傾向があり、FIT売電でより多くの売電収入が見込めます

おすすめできない企業

  • 太陽光発電システムの発電規模が高圧
  • 電気使用量が多い
  • 屋根面積が狭い
  • 補助金を使いたい

業種・業態例:製造工場、大規模店舗など

電気使用量が多い製造工場や大規模店舗は、FIT価格よりも割高な電気料金を支払っているため、自家消費率を高め、その電気料金をより多く削減した方が経済的です。
屋根面積が狭い場合には、太陽光パネルの設置スペースが限られ、発電した電気はほぼ自家消費分で消化されます。

自家消費モデルの経済性が低い場合の検討が◯

企業が導入する太陽光発電では、まず自家消費に重きを置いた自家消費モデルが最も経済性のある導入になります。その前提を踏まえた上で、前述のようなおすすめの企業では、そのメリットは限定されます。その場合の次の導入手法として、屋根設置FIT余剰売電の検討が良いでしょう。

 

まとめ|これまでのFIT制度と卒FITの展望

FIT制度が始まった2012年度の太陽光発電の累計導入量は911万kWでしたが、5年後の2017年には5倍の4,773万kW、2020年には7倍の6,476万kWと、FIT制度を契機として普及が大きく進展しました。今では、日本の太陽光発電の導入量は中国(1億5,364万kW)、アメリカ(9,549万kW)に次ぐ世界第3位を誇ります。(2020年)

一方で、単年度の導入量で見ると、FIT制度の買取価格が低下した関係で2014年をピークに減少、近年は横ばい傾向にあります。政府が掲げる2050年カーボンニュートラルの達成に向けては、さらなる導入拡大の必要がありますので、今後の太陽光発電の導入促進策が期待される状況です。

太陽光発電の累計導入量(出典)エネルギー白書2022|資源エネルギー庁、IEA公開資料より作成

太陽光発電の単年度導入量(出典)エネルギー白書2022|資源エネルギー庁、IEA公開資料より作成

(参考)エネルギー白書2022|経済産業省

太陽光発電のFIT制度は卒FIT・FIPの自立路線へ

FIT制度の恩恵を受け太陽光発電は急速に普及しました。普及とともにコストも低減され、発電時のコストは火力発電や原子力発電を下回り、最もコストの安い電力にもなりました。これを受け、数年前から政府の太陽光発電の方針は、FIT制度におんぶにだっこの状態から脱却し、徐々に市場での取引へ移行させる路線に転換しています。

住宅用FIT太陽光発電は、買取期間の10年が過ぎた物件も出始めており、FITが終了した太陽光発電の電力の買取サービスとして「卒FIT」が注目されています。自家消費し切れず余った電力を買い取るサービスが、大手電力会社や大手新電力会社から展開されています。

10kW以上の事業用、特に高圧以上の大きな設備については、新たにFIP制度が適用されるようになりました。FIP制度では、FIT制度同様に一定の買取価格水準は保証されていますが、FITよりも割安で、市場での取引結果が買取価格に反映される仕組みになっています。

このように、太陽光発電におけるFIT制度は、ある種の保護から自立へと移行段階にあります。