介護施設のBCP(事業継続計画)義務化について解説します
法制度 更新日: 2023.03.30
介護サービスを提供する施設や事業所にはBCP策定が義務付けられています。義務化された背景や実際にBCPを策定する際のポイントや手順、効果的な施策をご紹介いたします。
以下からは、過去に弊社で開催したBCPセミナーのダイジェスト資料を無料でダウンロードいただけます。BCP策定をご検討されている介護施設・事業所様がぜひお手に取ってご覧ください。
BCPとは
まずBCPとは「Business Continuity Plan」の略語で日本語では「事業継続計画」と訳されます。自然災害や感染症、テロなどの緊急事態に直面した際に、被害を最小限に抑え迅速な事業の再開および継続を実現するために、平時から緊急事態を想定して事業再開や継続のために策定する計画のことを指します。
BCPは、介護サービス業にのみ適用されるものではなくすべての企業にとって重要な経営課題です。
緊急事態について新型コロナウイルスがもたらした新様式への適用が記憶に新しく、日本での感染症が広まった2020年はほとんどの企業が業績を落としました。従業員を解雇したり資産を売却したりといった対応を取らざるを得ない企業が相次ぐ中、それでも補填できなかった企業は倒産に追い込まれていきました。
新型コロナウイルス以外にも気候変動により年々脅威を増す自然災害、日本が地理上、慢性的に抱える地震や津波、火山の脅威、外交上の脅威など、企業を取り巻く環境には予期せぬ緊急事態の脅威が至るところに存在しています。すでに表面化している脅威も数多くあり、具体的な被害をももたらしていることから、企業におけるBCPの重要性はかつてないほど高まっています。
BCPの詳細については、以下の記事でも詳しく解説しています。
介護施設・事業所におけるBCPとは
介護サービス業を展開する介護施設および事業所には、2024年からBCP策定が義務付けられました。義務化された内容や介護施設・事業所におけるBCP策定の意義はどのようなものでしょうか。
BCP策定が義務化される
2021年4月に施行された厚生労働省の「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」において、施行から3年後の2024年からBCPの策定および関連する研修や訓練の実施などが義務付けられました。
感染症や災害が発生した場合であっても、必要な介護サービスが継続的に提供できる体制を構築する観点から、全ての介護サービス事業者を対象に、業務継続に向けた計画等の策定、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施等を義務づける。その際、3年間の経過措置期間を設けることとする。【省令改正】 |
(出典)令和3年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省
BCP策定だけでなく、有事の際に活用ができるように研修および訓練(シミュレーション)の実施も併せて義務化される内容で、介護サービスを提供するすべての施設・事業所に対応が求められます。
義務化に併せ、厚生労働省からは介護施設・事業所のBCP策定を支援するガイドラインも公開されています。ガイドラインにおいて介護施設・事業所のBCPは「新型コロナウイルス感染症対策」と「自然災害対策」の2軸で設定され、それぞれ施設・事業所別の「入所系」「通所系」「訪問系」でまとめられています。
BCPを策定する意義
介護サービスは言わずもがな命を扱う業務で、介護および支援を必要とするご本人やそのご家族にとって、なくてはならないサービスです。
BCPが対象としているような緊急事態が発生し、電気・ガス・水道のライフラインが寸断され外出も困難となり、介護サービスの提供が滞るような事態となると、サービス利用者の健康に悪影響を与え、命まで脅かされかねません。身体や命に深く関わるサービスを提供しているからこそ、たとえ緊急事態下であってもサービスの供給が求められます。
2020年初頭からの新型コロナウイルス感染症拡大に対しても、安定した介護サービスの提供、運営する施設や事業所のレジリエンス強化といった面でBCP対策は非常に有効です。すでに様々な対処を取られている介護施設・事業所が多いですが、それらをBCPという共通言語のもと取りまとめることも大切です。
被害を最小化し利用者の命を守る
BCP起点での経営の見直し
日常的なトラブルへの対策
将来的な事業承継につながる
平時の事業存続・発展に
介護施設・事業所におけるBCP策定の現状
2022年3月付けで公表されたNTTデータ経営研究所による介護施設・事業所のBCPの取り組み調査の報告書によると、感染症対策におけるBCPを策定している事業所は全体の27.9%(491事業所)で、未策定だが策定予定がある事業所は49.9%(877事業所)、未策定で策定目途も立っていない事業所は22.2%(390事業所)となっています。
未策定の事業所でも感染症対策に必要な物資を備蓄・補充したり、換気や消毒などによる基本的な感染症対策と職員および利用者の体調管理を適切に行っているか確認をしたりしている事業所は8割以上が実施しています。自然災害対策のBCPについては、策定している事業所は全体の26.9%(470事業所)、未策定だが策定予定がある事業所は50.3%(880事業所)、未策定で策定目途も立っていない事業所は22.8%(399事業所)となっています。
(参考)令和3年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進推進事業 感染症対策や業務継続に向けた事業者の取組等に係る調査研究事業 報告書|株式会社NTTデータ経営研究所
介護施設・事業所の感染症におけるBCP対策
ガイドラインに沿って新型コロナウイルス感染症に対するBCP対策をご紹介していきます。自然災害の場合のBCPを比べた場合には、被害の対象や期間などに違いがあります。
正確な情報の取得と的確な判断の両立
感染の流行傾向やその影響は、不確実性が高く予測が困難です。しかしながら、入所者・利用者や職員への感染リスク、介護サービスを継続する社会的責任、施設・事業所を運営していくための収入の確保といった観点から、業務を続ける必要があり、優先して継続・復旧させるべき業務レベルの判断が求められます。
不確実性が高い状況下であっても適切な判断を下すために、正確な情報収集ができる体制と都度的確な判断を下せる指揮系統の構築が必要でしょう。
ヒトを意識した対策
自然災害は建物やインフラなど”モノ”への被害をもたらしますが、感染症では”ヒト”に集中して被害が大きくなります。被害を最小限に抑える事前策として感染症予防策の徹底、事後策として職員の確保および補充や専用病棟の確保などをあらかじめ検討しておくことが大切です。
また、物流や社会情勢の混乱による物資不足も予想されることから、備蓄可能な物資は平時から備蓄しておくことも欠かせません。
平時からの感染防止策が有効
感染症を想定したBCP対策では、感染が広がった後の対策を検討し備えておくことも重要ですが、平時からの感染防止策が有効です。
業務量の増加と時間的推移
自然災害が発生すると、インフラの寸断などによって通常業務ができなくなったり、避難誘導や安否確認などによる災害時業務が発生したりすることで、通常の業務量が急減します。一方、新型コロナウイルスの感染拡大では、感染対策や感染者への対応といった業務が一時的に増加し、通常業務も変わらず遂行されますので全体の業務量は増大します。感染拡大への対応がマニュアル化され実地対応も円滑に行われるようになれば業務量は徐々に減少していき、それに応じて時間的な融通も効くようになっていきます。
こうした一時的な業務量の増大およびリソースの不足に対応するために、感染症(新型コロナウイルス)を想定したBCPの策定では、職員不足時においては健康・身体・生命を守る機能を優先的に維持しつつ、感染症の感染者(感染疑いを含む)が施設・事業所内で発生したとしても、通常業務に加え感染症業務のサービスを継続させることが目的となります。
介護施設・事業所の感染症におけるBCP策定のポイント
情報共有および即時対応ができる体制の構築
感染者(感染疑いを含む)発生時の迅速な対応には、平時と緊急時の情報収集・共有体制や、情報伝達フローなどの構築がポイントとなります。そのためには、全体の意思決定者を決めておくこと、各業務の担当者を決めておくこと(誰が何をするか)、関係者の連絡先、連絡フローの整理が重要です。
感染者(感染疑いを含む)者が発生した場合の対応
介護サービスは感染者(感染疑いを含む)が発生した場合でも、入所者・利用者に対して必要な各種サービスが継続的に提供されることが重要です。平時から感染者(感染疑いを含む)発生時の対応について整理し、シミュレーションを行うことが有用です。
職員確保
新型コロナウイルスの感染拡大では、職員が感染者や濃厚接触者となることなどにより職員が不足し、継続的な介護サービスの提供に支障をきたすケースが多発しました。濃厚接触者とその他の入所者・利用者の介護などの実施にあたっては、可能な限り担当職員を分けることが望ましいですが、職員が不足した場合、こうした対応が困難となり交差感染のリスクが高まることから、適切なケアの提供だけではなく、感染対策の観点からも職員の確保は重要です。そのため、施設・事業所内・法人内における職員確保体制の検討、関係団体や都道府県などへの早めの応援依頼を行うことが重要です。
業務の優先順位の整理
職員が不足した場合は、感染防止対策を行いつつ、限られた職員でサービス提供を継続する必要があることも想定されます。可能な限り通常通りのサービス提供を行うことを念頭に、職員の出勤状況に応じて対応できるよう業務の優先順位を整理しておくことが重要です。
平時からの周知・研修・訓練
BCPは作成するだけでは実効性があるとは言えません。危機発生時においても迅速に行動ができるよう周知し、平時から研修、訓練(シミュレーション)を行う必要があります。また、最新の知見などを踏まえ、定期的に見直すことも重要です。
以前に開催したBCP対策手法徹底解説セミナーを録画配信しています。BCPの基礎と対策、初動対応に欠かせない安否確認システムなどを解説しています。詳細は以下をクリックください。
介護施設・事業所の自然災害におけるBCP対策
感染症への対策に加え、近年脅威を増す自然災害への対応も重要な課題です。感染症を想定したBCPとは違い自然災害の規模によっては、平時から万全の備えを実施したとしても通常の介護サービスの提供が困難となる場合があり、生命に直結する業種であることからBCPを策定することの社会的必要性は高いと言えます。
防災計画との違い
防災計画は身体や生命の安全確保と物的被害の軽減に主目的が置かれ、自然災害で被る被害を最小限にすることを目指します。自然災害を想定したBCPにおいても身体・生命の安全確保および物的被害の軽減は大前提とされます。BCPは加えて、重要業務の継続や早期復旧を目指すものであり、共通する項目も多く存在します。
従来の防災計画に加えて、避難確保、介護事業の継続、地域貢献を加えて総合的に検討することが重要です。
(出典)介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン|厚生労働省
サービスの継続
介護サービスは、入所者・利用者の健康・身体・生命を守るために必要不可欠な責任を担っています。施設は入所者にとって「生活の場」であり、地震などの災害に見舞われたとしても、必要最低限以上のサービスを提供し続けられるよう、事前の検討や準備を進める必要があります。通所・訪問事業所においても、極力業務を継続することが望ましく、利用者の影響を極力抑える検討と準備が欠かせません。
利用者の安全確保
介護事業者は、体力が弱い高齢者などに対するサービス提供を行います。自然災害が発生した場合、深刻な人的被害が生じる危険性があるため、「利用者の安全を確保する」ことが最大の役割で、「利用者の安全を守るための対策」が何よりも重要となります。
職員の安全確保
自然災害発生時や復旧において業務継続を図ることは、長時間勤務や精神的打撃など職員の労働環境が過酷になることが懸念されます。したがって、労働契約法第5条(使用者の安全配慮義務)の観点からも、職員の過重労働やメンタルヘルス対応への適切な措置を講じることが管理責任者の責務となります。
地域への貢献
介護事業者の社会福祉施設としての公共性を鑑みると、施設が無事であることを前提に、施設がもつ機能を活かして被災時に地域へ貢献することも重要な役割となります。
介護施設・事業所の自然災害におけるBCP策定のポイント
(出典)介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン|厚生労働省
情報共有および即時対応ができる体制の構築
感染者災害発生時の迅速な対応には、情報集約および共有が円滑に行われる体制を構築しておくことがポイントです。そのために全体の意思決定者を決めておくこと、各業務の担当者を決めておくこと(誰が、何をするか)、関係者の連絡先、連絡フローの整理が重要です。
事前・事後対策の準備
被災する前の対策と被災した後を想定した対策を、平時から同時に準備しておきます。
事前の対策(いま何をしておくか)
設備・機器・什器の耐震固定、インフラが停止した場合のバックアップ
被災時の対策(どう行動するか)
人命安全のルール策定と徹底、事業復旧に向けたルール策定と徹底、初動対応(①利用者・職員の安否確認・安全確保②建物・設備の被害点検③職員の参集)
業務の優先順位の整理
施設・事業所や職員の被災状況によっては、限られた職員・設備でサービス提供を継続する必要があることも想定されます。そのため、可能な限り通常通りのサービス提供を行うことを念頭に、職員の出勤状況、被災状況に応じて対応できるよう、業務の優先順位を整理しておくことが重要です。
平時からの周知・研修・訓練
感染症BCPと同様に、平時からの周知、研修、訓練で緊急時に備えておくことがポイントです。
以下からは、過去に弊社で開催したBCPセミナーのダイジェスト資料を無料でダウンロードいただけます。BCP策定をご検討されている介護施設・事業所様がぜひお手に取ってご覧ください。